交通事故にあった場合、様々な聞き慣れない用語が出てきます。
 ここでは、交通事故に関する用語について、裁判例を踏まえると注意した方が良いと思われる点を加味し、解説していきます。

保険関連

 交通事故に関して出てくる保険としては、まず、自賠責保険と任意保険があります。
 自賠責保険とは、自動車を所有する場合に必ず加入しなければならない保険であり、強制保険といわれたりしています。
 任意保険とは、いわゆる自動車保険のことであり、自賠責保険とは別に加入することになります。文字どおり、加入は任意であるため、任意保険に加入していない人もいます。
 任意保険の加入率は、9割弱です。
 自賠責保険にも任意保険にも加入していない場合のことを、無保険ということがあります。自賠責保険には加入しているものの、任意保険には加入していない場合も無保険ということがあります。

交通事故証明書

 交通事故が発生したことを警察に届け出ると(届け出なければなりません。)、交通事故証明書というものを発行してもらえます。
 交通事故証明書には、交通事故が発生した場所、発生した時間、当事者の名前、住所、電話番号(記載されない場合もあります。)、車やバイク、自転車の登録番号等が記載されています。
 また、人身事故か物件事故かの記載もあります。

人身事故・物件事故

 人身事故とは、交通事故により当事者が怪我をした場合の事故を意味します。
 物件事故とは、交通事故により車やバイク、自転車などが壊れた場合の事故を意味します。
 人身事故として処理してもらうためには、当事者が警察に人身事故であることを届け出た上で、警察が人身事故であると認める必要があります。人身事故として届け出るには、怪我をした人の診断書(医療機関が発行するもの)が必要になります。
 人身事故として届け出をしないと(要するに物件事故として処理されていると)、怪我の損害(人身損害といいます。)について相手の保険会社に支払ってもらえないと誤解されている場合があります。しかしながら、物件事故として処理されていてもその交通事故で怪我をしたことについて争いがない場合は、相手の保険会社に支払ってもらえないということは通常ありません。
 当事者が怪我をしているのに物件事故として処理されるケースには、怪我をした人が自ら人身事故として届け出なかった(加害者の処罰を特段望まない場合、診断書を警察に提出するのが面倒な場合など。)、被害者が加害者から頼まれて人身事故として届け出なかった(加害者が職業運転手の場合、免停になることなどによって仕事ができなくなることがあるため、被害者に対して人身事故として届け出ないで欲しいと依頼することがあります。)といったケースがあるため、物件事故として処理されているからといって当事者がその事故で怪我をしなかったとはいい切れないからです。

過失割合

 過失割合とは、その事故の責任がどちらにどの程度あるかを意味するものです。
 被害者に過失(責任)がない場合は、0(被害者):100(加害者)(または0:10)と説明されます。
 過失割合は、相手に対していくら請求できるか(いくら支払わなければならないか)を決める基準になります。
 例えば、過失割合が0(A):100(B)の場合、Aは交通事故によってAに発生した損害の全額(100%)をBに対して請求でき、Bは交通事故によってBに発生した損害をAに請求することはできません。
 過失割合が30(A):70(B)の場合、Aは交通事故によってAに発生した損害の70%(Bの過失割合分)をBに請求することができ、Bは交通事故によってBに発生した損害の30%(Aの過失割合分)をAに請求することができます。
 したがって、過失割合が10(A):90(B)という、ほぼBが悪い事故であっても、Aに発生した損害が10万円であり、Bに発生した損害が1000万円である場合は、AはBに対して9万円(10万円×90%)しか請求できない一方で、BはAに対して100万円(1000万円×10%)請求できることになります。
 なお、「現場で相手が謝っていた!」とか「現場で相手が全部悪いと認めた!」といったことを言われることがありますが、過失割合とはどのような事故であったかという観点から判断されるものであり、現場で相手が何と言っていたかは関係ありません(追突してきた加害者が「俺は悪くない!」といくら言ったところで、それによって加害者の責任がなくなるわけではないということからもご理解いただけると思います。)。
 また、「動いている車同士の事故の場合は0:100はあり得ない。」といったことを言われることがありますが、動いている車同士の事故であっても0:100となるケースはあります。
 例えば、片側2車線の道路をA車とB車が並走していた場合に、突然A車がB車の方に寄っていって接触したような場合です。このような場合は、B車にはA車が寄ってくることを想定することは困難であるため、0:100として処理される場合があります。
 また、普通に走行しているA車に対し、A車よりも速い速度で走ってきたB車が追突したような場合も、A車には避けようがないため、0:100として処理されるでしょう。

 過失割合については、事故類型と基本的な過失割合や基本的な過失割合を修正すべき場合などについて記載した別冊判例タイムズ38という文献があります(別冊判例タイムズ38は、略して「判タ」(はんた)と通称されます。)。
 別冊判例タイムズ38は、 東京地方裁判所交通部の裁判官などが、過去の裁判例等を集積・分析して編著した文献であることから、一般的には、保険会社も裁判所も、この別冊判例タイムズ38を参考に、過失割合について判断しています。もちろん、別冊判例タイムズ38には記載されていないような特殊な道路状況や態様での事故も存在することから、そのような場合は、別冊判例タイムズ38の類型にあてはめて検討できないか、類似の事故を扱った裁判例はないかといった観点から、個別的に判断されることになります。
 別冊判例タイムズ38には、自動車同士の事故だけでなく、自動車対歩行者、自動車対自転車、自動車対バイクなどの類型や、救急車などの緊急車両との事故の類型、駐車場内での事故の類型などが記載されています。

修理費用

 交通事故により自動車やバイク、自転車が壊れた場合に、その壊れた箇所を修理するために必要となる費用のことを意味します。
 交通事故による損害として賠償が認められる修理費用とは、その事故によって壊れた箇所を一般的な方法で修理する場合に必要となる一般的な費用です。
 その事故とは無関係に元からついていた傷を修理する費用や、一般的な修理費用よりも明らかに高額な修理費用について請求しても認められません。

協定(修理費用について)

 交通事故により自動車やバイクが壊れ、修理することになった場合、修理費用について「協定」するという言葉が出てくることがあります。
 この協定とは、保険会社のアジャスター(損害額算定の専門家)と修理業者とが、交通事故によって壊れた箇所を特定し、修理内容と修理費用について合意することを意味します。
 アジャスターと修理業者や車の持ち主との意見が合わず、協定ができない場合もあります(アジャスターは板金修理を主張し、車の持ち主が交換修理を希望する場合など)。

全損・分損

 全損には、経済的全損と、物理的全損があります。
 経済的全損とは、壊れた自動車などを修理するために必要となる費用の額が、その自動車などの時価額(事故当時の時価額を基準とします。)を上回る場合をいいます。
 物理的全損とは、大破してしまった場合など、技術的に修理が困難である場合をいいます。
 全損の場合は、被害者は加害者に対して自動車などの時価額しか請求することができません(その他、買い換え諸費用などを請求できる場合があります。)。
 例えば、被害者の自動車の時価額が10万円であり、修理するためには30万円必要だとします。この場合、被害者としては加害者に対して30万円支払ってもらって壊れた自動車を修理したいところですが、10万円しか請求は認められません。
 これは、物の価値はそのときの時価で決まるものであり、物を壊してしまったとしても時価以上の損害は与えていないと考えられているためです。
 では、時価はどうやって決めるのでしょうか。
 自動車やバイクの場合は、いわゆるレッドブックという、多数の車種をグレード別に、「その月のこの車の中古車販売価格の平均はいくらか」を記載した冊子が参考にされています。
 ただし、特殊な車種(グレード)や古い車種はレッドブックには掲載されていないため、中古車情報サイトなどの情報を参考に時価額を決めることになります。
 中古車情報サイトにも掲載されていない場合にどうするかについては別の考え方がありますが、専門的になるためここでは省略します。
 相手の保険会社から提示された時価額に納得ができない場合は、ご自身で中古車情報サイトを検索されることをお勧めします。なお、中古車情報を検索する場合は、ご自身の車よりも新しい年式や走行距離が短い車両、上のグレードの車両であれば中古車価格が高くなることは当然であるため、参考にできません。ご自身の車と同じ年式、同程度の走行距離、同じグレードの情報を検索する必要があります。

損害賠償請求することができる項目(費目)

 ここでは、過失割合0:100の交通事故により被害者の自動車が壊れ、被害者が怪我をした場合を想定して解説していきます。
 まず、実務上、物的損害と人身損害に分けて検討されます。
 物的損害とは、物が壊れたことによって発生する損害のことです(「物損(ぶっそん)」と略されます)。
 人身損害とは、人が怪我をしたり死亡したりすることによって発生する損害のことです(「人損(じんそん)」と略されます)。

物的損害

 物損については、次の項目を請求することができます(あくまで、損害として発生した場合に、事故との関係性(相当因果関係といいます。)が認められる範囲に限定されます。)。

  1. 自動車の修理費用(全損の場合は時価額)
  2. 全損の場合の買替諸費用(全てが認められるわけではなく、裁判例上、認められる項目は限定されています。)
  3. 代車費用(だいしゃひよう)

     被害に遭った自動車を修理する期間(または全損となって買い替える期間)に、被害にあった自動車の代わりに使用した車(代車)を借りるためにかかる費用のことです。
     通常は、レンタカーを借りることになります。
     代車費用は、必ず請求が認められるわけではないため、必要以上に高いグレードのレンタカーを借りたり、必要以上に長期間レンタカーを借りたりすると、自己負担となってしまうリスクがあり、注意が必要です。
     裁判例上は、①代車を使用する必要性が認められ、②相当な代車を借りた場合であり、かつ、③相当な期間の限度で請求が認められることになります。
     ただし、一般的には、交通事故の被害者が、加害者側の保険会社に対し、代車を要求した場合、特に他の点で揉めなければ代車費用が認定されるケースは多く見られます。
     ①代車を使用する必要性については、単に「車が自宅にないと使いたい時に不便だから。」といった理由では認められません。通勤に使っており他に代替できる交通手段がない場合や、定期的に家族を病院に連れて行く必要があり使用している場合などに認められやすくなります。
     ②相当な代車を借りた場合とは、被害にあった自動車と同じ程度のグレードの代車を借りた場合のことです。
     例えば、プリウスが被害に遭い、プリウスの代車としてポルシェを借りたとしても、プリウスを借りるために必要な相当額しか請求は認められません。
     保険会社から、被害に遭った自動車よりもランクの低い車種を代車として借りて欲しいといったことを言われることがあります。プリウスが被害に遭ったのに軽自動車を借りなければならない理由はありませんが、被害者にも過失がある場合は、代車費用のうちの被害者の過失割合相当部分については被害者の自己負担となるため、自己負担をかるくするためにより安い車を借りるメリットはあります。
     保険会社が提携しているレンタカー会社から代車を借りる場合、損保料金といって通常よりも安くレンタカーを借りることができる場合があります。被害者にも過失がある場合などは、保険会社が提携しているレンタカー会社から代車を借りることは被害者にとってもメリットがあります。
     なお、保険会社が提携しているレンタカー会社ではなく通常料金でレンタカーを借りたとしても、被害者が受け取る金額が増えるわけではないので、交渉をスムーズに進めるためにも保険会社の提案に乗ることができるところは乗った方が良いでしょう。
     ③相当な期間とは、被害に遭った自動車を修理するために一般的に必要となる相当な期間や(分損の場合)、被害に遭った自動車を買い替えるために必要となる相当な期間(全損の場合)をいいます。ここに、通常必要となる一般的な交渉期間が加算されます。
     例えば、被害に遭った自動車が全損となり、被害者が買い替えるか時価額を超える部分について自己負担して修理するか悩んでいるようなケースでは、1週間程度悩んだからといって相当期間を超えると判断されることは考え難いですが、数か月間悩んだようなケースであれば、相当期間を超えると判断されることになると思われます。
     また、分損の場合で、修理に必要な部品の供給に時間がかかったようなケースでは、修理期間が長引いたのは被害者のせいではないため(加害者のせいでもありませんが。)、長引いた分も相当期間に含まれると判断されることが多いと思われます。
     この点、例えば過失割合について長期間揉めに揉め、被害者が自動車を修理せずに長期間代車を使用し続けたケースがあるとします。このような場合は、全期間について代車費用の請求が認められる可能性は低いと思われることから、注意が必要になります(安易に長期間代車を使用していると、被害者に高額な自己負担が発生するリスクがあります。)。
     代車を使用する期間が長引いた場合、長引いた原因が誰にあるかによって相当期間の範囲が判断されることになるため、例えば、被害者が加害者側の保険会社に対して無理難題を要求して代車を使用し続けたことにより代車を使用した期間が長期化したような場合(つまり、長期化した原因が被害者にある場合)は、被害者の自己負担額が相当高額になることも覚悟しなければならない場合があります。当然に相手の保険会社が払ってくれるものだと思って安易に代車を使用し続けると、思わぬ負担が発生する場合がありますので、注意が必要です。
  4. 積載物

     被害に遭った自動車に積んでいた荷物が壊れた場合も、損害賠償請求することができます。
  5. 全塗装が認められるか

     ある程度年数の経った自動車が被害に遭った場合、一部のパネルを修理(交換や塗装)すると、他の部分との色合いが微妙に違ってしまうことがあります。
     このような場合、被害者としては、「元の状態に戻して欲しい。ドア一枚色合いが違うのは納得できないので、全塗装費用も支払って欲しい。」といった気持ちになることは十分理解できます(弁護士原田も、白い自動車に乗っていた頃、助手席のドアにぶつけられ、修理後にドアパネルだけが真っ白で、他の部分は日焼けして若干黄ばんでいたため、「歯抜けみたいになったな。」と思ったことがあります。)。
     しかしながら、日本の裁判所は加害者が壊した部分の修理費用しか認めてくれないため、特殊な事情がない限り、全塗装費用の請求が認められることはありません。
     一方、上記の例でいえば、助手席のドアパネルの周辺をぼかし塗装することで、色合いの違いを目立たなくするために要した費用については、通常請求は認められることになります。
  6. 全面コーティング費用が認められるか

    自動車を綺麗に保つため、また、洗車で簡単に汚れが落ちるようにするため、コーティングをした車が増えてきました。
    そこで、塗装と同じように、全面コーティングが認められるのかという問題があります。
    コーティングが施された自動車を修理した場合に、修理箇所について再コーティング費用の請求が認められることはありますが(色々と被害者側で立証する必要があります。)、塗装の場合と同じように、全面コーティング費用の請求は基本的に認められません。
    結果、修理して再コーティングした箇所はよく水を弾くのに、その他の部分は水弾きが悪くなったということもあり得ると思われます。
人身損害

 人損については、次の項目を請求することができます(あくまで、損害として発生した場合に、事故との関係性(相当因果関係といいます。)が認められる範囲に限定されます。)。

  1. 治療費

    事故によって負った怪我を治療するために必要になった病院代や薬代のことです。
    整骨院などでの施術費も含めて治療費ということもあります。
  2. 通院交通費

     事故によって負った怪我を治療するために病院などに行った場合に必要になった交通費のことです。足を怪我した場合など、バスや電車での通院が困難な場合は、タクシー代が認められることもあります。
     逆に、バスや電車での通院ができるのにタクシーで通院したとしても、バス代や電車代の限度でしか請求は認められないことが多いため、注意が必要です。
     自家用車で通院した場合は、燃料代として1kmあたり15円の請求が認められます。
     遠回りをして通院しても、合理的なルートでの距離分しか認められないため注意が必要です。
     また、自家用車で通院し、駐車場代が必要であった場合は、駐車場代の請求も認められます。駐車場を使った場合は、領収書(レシート)を残しておく必要があります。

    Q:飛行機代は認められるか?

     原則として、特殊な事情がない限り、認められないと考えた方が安全です(被害者が離島に住んでおり、通院するためには飛行機が必要といった場合は別。)。
     基本的には、飛行機を使わなくとも治療できる病院が近くに存在する限り、飛行機を使ってまで遠方の病院へ通院する必要はないからです。
  3. 休業損害

     事故による怪我のために被害者が働くことができなくなり、仕事を休む必要があった場合、収入が減った分を休業損害として請求することができます。   
     この点も、休んだら休んだ分だけ当然に請求が認められるわけではないため、注意が必要です。
     休業損害を請求するためには、被害者が会社員などの給与所得者であるか、個人事業主であるか、会社社長などの役員であるかなどによって揃えなければならない証拠(資料)が異なります。特に、会社役員の場合は仕事を休んだからといって役員報酬が減るわけではないと考えられているため、注意が必要です(一人で会社をやっているのか、複数の従業員を抱えた会社の役員なのかによっても違います。)。
     ここでは、会社員などの給与所得者の場合について解説します。
     給与所得者が休業損害を請求する場合は、まず、勤務先に休業損害証明書を作成してもらう必要があります。休業損害証明書の書式(ひな型)は加害者側の保険会社からもらうことができます(当事務所にも書式は備えてあります)。
     休業損害証明書には、事故にあった日の前月から過去3か月分の実績(稼働日数、支払いを受けた金額)を記載する欄があります。また、休んだ日(早退した日、有給を使用して休んだ日を含みます。)を記載する欄があります。これらによって、被害者が何日休み、どれくらいの収入が減ったかを確認することができます。
     また、通常は休業損害証明書だけでは資料としては足りず、事故前年分の源泉徴収票の提出が必要になります(その他、賃金台帳や勤怠表、課税証明書などの提出を求められる場合もあります。)。
  4. 慰謝料(傷害慰謝料、入通院慰謝料)

     交通事故によって怪我を負い、通院した場合、慰謝料の請求が認められます。
     つまり、通院しなければ、基本的に慰謝料の請求は認められないため注意が必要です。
     慰謝料には、自賠責保険基準、任意保険基準、赤い本基準(=弁護士基準、裁判所基準、赤本基準)の3つの基準があります。
     基本的には、自賠責保険基準<任意保険基準<赤い本基準の順で金額が高くなります(通院期間や日数にもよります。)。
     弁護士に対応を委任した場合、他に何か揉めている点がなければ、基本的には赤い本基準に近いか、または赤い本基準どおりの解決となるため、この点については弁護士に委任するメリットがあります。
     赤い本基準の場合、頻繁に(極端にいえば毎日)通えば通っただけ慰謝料が増えるわけではないため、必要性を感じないのに毎日通院する必要はないというメリットもあります。
     ※ 赤い本(赤本)とは、『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』という書籍の通称です。
  5. 通院付添費

    被害者が乳幼児や児童である場合、または怪我の内容や程度から付添が必要になる場合は、通院付添費の請求が認められます。
    付添のために必要になった交通費については、通院付添費に含まれるという考え方と、通院付添費とは別に認められるという考え方があります。
  6. 入院付添費

     被害者が乳幼児や児童である場合、または怪我の内容や程度から付添が必要になる場合は、入院付添費の請求が認められます。ただし、単にお見舞いに行ったという程度で認められることはなく、具体的に入院している患者の身の回りの世話をしたといった事情が必要になります。現代の病院は基準看護(いわゆる完全看護)が前提となっているため、被害者の親族が付き添わなければならない場面は少ないといえますが、医師の指示に基づき付き添った場合は基本的に入院付添費の請求が認められることになります。
  7. 入院雑費

     入院する場合、身の回りの日用品を購入するなど、色々と入院代以外にもお金がかかります。そのため、一定の金額を上限として入院雑費の請求が認められます。
  8. 後遺障害慰謝料

     交通事故により負った怪我が完治せず、症状が残った場合は、後遺障害にあたると認定されれば、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料の請求が認められます。
     後遺障害慰謝料は、傷害慰謝料とは別に請求が認められます。
     後遺障害の認定については別に解説します。
  9. 後遺障害逸失利益

     後遺障害にあたると認定された場合、後遺障害逸失利益の請求が認められます。
     後遺障害によって、事故で怪我をする前と同じように働くことができなくなり、収入が減少すること(将来の話であり、減収したことではなく”減収すると考えられること”になります。)を損害として評価するものです。
     等級別に、どれくらい前と同じように働くことができなくなったか(労働能力喪失率)、どれくらいの期間、前と同じように働くことができなくなったか(労働能力喪失期間)を判断し、損害額を算定することになります。
     ただし、後遺障害にあたると認定されたものの、特段収入は減っておらず、むしろ収入が増えているケースなどでは、後遺障害逸失利益の発生が否定されるケースもあります。
  10. 将来介護費

     交通事故の怪我により重い障害が残り、介護が必要になる場合は、将来必要と考えられる介護費用の請求が認められます。
  11. 将来治療費

     治療費の請求が認められるのは、原則として症状固定時までに発生した分です。
     しかしながら、怪我の内容によっては、症状固定後も定期的な治療が必要になる場合があります。例えば、歯を補てつしたため、定期的なメンテナンスが予定される場合です。そのような場合は、具体的に将来の治療の必要性を立証できれば、将来治療費の請求が認められることがあります。
     ※ 症状固定については別に解説します。
  12. 死亡慰謝料

     交通事故により被害者が亡くなった場合、死亡慰謝料の請求が認められます。
  13. 死亡逸失利益

     交通事故により被害者が亡くなった場合に、生きていれば将来得られたであろう収入を想定し、逸失利益として請求が認められます。
     ただし、後遺障害逸失利益の場合とは異なり、亡くなった場合はその被害者の生活費はかからないことになるため、生活費控除といって、一定割合の金額が控除されることになります。
  14. 葬儀費用

     交通事故の怪我により被害者が亡くなった場合、一定金額(原則として150万円)を限度として葬儀費用の請求が認められます。
  15. 近親者の固有の慰謝料

     交通事故により被害者が亡くなった場合、被害者の近親者(親・子)について、被害者の損害とは別に、近親者固有の損害として慰謝料の請求が認められます。兄弟姉妹に関しては原則として請求は認められません。

症状固定

 症状固定とは、簡単にいうと、一般的な治療を継続しても、それ以上の改善が見込めなくなったことを意味します。
 症状固定時とは、症状固定に至った時を意味します。
 いつが症状固定時として妥当であるかは、怪我の内容や治療経過を考慮して判断されることになります。
 症状固定とは医学用語ではないため、いつが症状固定時として妥当かについて争いになった場合は、最終的には裁判官が判断することになります。もっとも、裁判官が判断する際には、担当医や専門医の意見が参考にされます。
 なお、被害者が「まだまだ少しずつ改善していっているから症状固定ではない」と主張し続ければ症状固定時が後になるわけではありません。あくまで、その怪我の内容からすれば一般的にはどの程度の治療期間が相当かという観点から判断されることになります。
 いつが症状固定時かという点は、よく争いになります。
 症状固定という概念は、治療費、通院交通費、休業損害、傷害慰謝料の請求が認められる時間的な限界を意味するためです。つまり、原則として、症状固定時よりも後に発生した治療費など損害については、請求が認められません(症状固定後に被害者が通院したとしても、将来治療費として認められない限り、治療費は自己負担になります。)。
 したがって、被害者としては、症状固定時が後になればなるほど、請求が認められる金額が増えるということになります。
 逆にいえば、加害者側からすれば支払わなければならない金額が増えるということになるため、よく争いになるということになります。